Eternal
「桜子ぉ〜!ここ、ここ!」
昼下がりの日曜日、落ち着いた雰囲気のオープンカフェに不似合いな声が響いた。
高々と手を振っているベリーショートの女性。
9月になったとは言え残暑が厳しく、ここ代官山のプラタナスもまだ青々としている。
「も〜、滋さんったら。恥ずかしいからそんな大きな声出さないでくださいよ。」
とは言うものの注目されることに慣れっこの桜子は、余裕の表情で滋の隣に腰を降ろす。
「ごめーん!だって会うの久し振りでしょ?つい嬉しくなっちゃって。」
えへっと舌を出した後、滋はキャラメルマキアートのカップを燻らせた。
「・・・で、どうしたんですか?急に会いたいなんて。まあ、大体察しはつきますけどね。ポストカードのことでしょ?」
「うん。桜子のところにも届いたでしょ。あのツーショットの・・・」
「迷いのないいい顔してましたね。どちらも。」
「ホント!でもビックリしたな〜。いきなり us -- it was
engaged でしょ!?二人っきりでカナダに婚約旅行なんて司もやるわよね。」
「何しろ先輩たちにとって思い出の場所ですからね。カナダの別荘は・・・」
「司、よっぽど誰にも邪魔されたくなかったんじゃないの?」
意味深な笑いを浮かべる滋。
「先輩も水臭いですよね。西門さんや美作さんならわかりますけど、私たちにまで秘密にするなんて。」
運ばれてきたばかりのシナモンティーを一口喉に流し込むと、桜子はニヤリとしながら続けた。
「あの二人やったんでしょうかね? 滋さん、どう思います?」
「やっだ〜!桜子ったら、やったなんて〜」
待ってましたとばかりに、滋が目の色を変えて飛びつく。
「まさか、もういくらなんでもね〜 司がNYに行く前、つくしから何もなかったって聞いて説教してやったのよ。あたし。」
「滋さんも?私も道明寺さんがお気の毒で・・・NYにおしかけろって言ってやりましたよ。」
滋はゴソゴソとバックから例のカードを取り出すと、食い入るように見始めた。
「滋さん、何してるんですか?」
「どっかにキスマークでも残ってないかと思ってさ。名探偵滋ちゃんが暴いてやる!真実はひとつだ〜!」
「そんなことしなくても大丈夫ですよ。先輩が帰ってきたら問い詰めてやりましょうよ。あんなにわかりやすい人も珍しいですからね。」
「でも童貞と処女の初夜ってどんな感じなんだろう〜?燃えるだろうな〜」
どうしてもその話題から離れたくない様子の滋。
「お姫様方、楽しそうですね。僕達も仲間に入れていただけませんか?」
話が佳境に入ろうかと言う時に後ろから声をかけられた。
振り返ると総二郎とあきら、それに少し後ろに類の姿も。
「わー!いい男が三人、日曜日の昼日中にお揃いでどうしたの?」
思いがけず同窓会のような展開に滋がはしゃぐ。
「多分、お二人さんと同じ感じじゃねぇ?俺たちは夜の方がよかったんだけど、類のやつが相変わらず早寝だから。」
そう言ってあきらと顔を見合わせ苦笑する総二郎。
「じゃあ、やっぱりみなさんも知らなかったんですか?」
「いや、類にだけは牧野から国際電話があったらしいぜ。でもこいつ黙ってたから。」
あきらが類の頭を軽く小突いた。
「え〜!ズル〜イ!じゃああたし達にも司から報告があっていいのにね〜」
滋はちょっと頬を膨らませてみせた。
「そうですよね!舐められちゃいましたね。玉砕シスターズ。」
「どうせだから移動してみんなで飯でも食わねぇ?」
「ちょっとぉ!いきなり帰国したかと思ったら強引にこんな所まで引っ張ってきて一体どういうつもり!?」
あたしは今カナダの道明寺家の別荘にいる。
昨日、突然アパートにあいつが訪ねて来たと思ったら、「ちょっと来いっ!」ってあたしの手を強く引っ張った。
「どっ、どこ行くのよっ!」
あたしの質問には答えず、
「パスポートだけ忘れんな。あとは何にもいらねえから。」と少し強い口調で言い切るあいつ。
渡米してから1年半、初めての再会だと言うのに甘いムードとは程遠く、相変わらず超自己中で成長の跡が全く見られないあいつに、あたしのイライラは加速していった。
でもあたしの迫力負け。
結局押し切られる形でリモに乗り込んだ。
搭乗するまで強く握った手は離してもらえず、おまけに離陸した途端あいつは爆睡しちゃうし、
あたしも機内食食べたら眠くなってきちゃって・・・
時差ぼけの頭で迎えの車に乗せられここまで来たって訳。
成田を17時に発ってから、バンクーバーまで8時間半。別荘までは車で3時間。
なのにまだ同じ日の14時だなんて。
ついて来てしまった以上、ジタバタしても始まらない。
あいつに言ってやりたいことは山ほどあるけど、ここは一先ず落ち着こうと腹を決めた。
とりあえず次々に部屋の窓を開けていき、お湯を沸かそうとキッチンへ。
久し振りの訪問者のはずなのにどの部屋も塵一つ落ちていない。
流石道明寺家の別荘ともなると管理が行き届いてるわなんて感心したりして。
冷蔵庫を開けると新鮮な食材がぎっしり詰まっていて、あいつの計画的犯行の臭いがした。
お米や日本茶まであるじゃない。
玉露を淹れてあいつを捜すと、暖炉の前のフソァにポツンと腰掛けていた。
「はい。」
「サンキュ。・・・カナダで日本茶なんてなんか可笑しいな。」
そう言いながらも笑っていない顔が気になる。
静かにお茶を飲みながら、あいつが話してくれるのを待った。
日本での勢いは何処へやら、どこか寂しそうな横顔を見ていると、さっきまでの怒りも用意した言葉も消えていく。
こんなの反則だよね。
少し痩せた?
ちゃんと食べてるの?
あたしの事、時々は思い出してくれた?
言葉にならない想いが溢れそうになる。
世界中にたった二人だけ・・・・・そんな気にさえさせる静寂。
あたしは飽きもせず、ただあいつの横顔を見つめていた。
どれくらい時間が経っただろう。
日も傾きかけた頃、ようやく道明寺が口を開いてくれた。
「悪かったな。お前の都合も考えないで強引にこんな所まで連れて来て。あーーーー!俺何やってんだろう。またお前を困らせちまったな。」
こんな風に素直に謝られると調子が狂っちゃうじゃない。
「うん。確かに最初は頭に来たけど、どんな形ででもこうやって再会出来たことはやっぱり嬉しいよ。」
正直な気持ちが伝えられてホッとしていると、
「・・・・・・ありがとう。」って予想していなかった言葉が返ってきた。
あれ?こいつ少しは成長してる?
「何だか冷えてきたな。暖炉に火を入れるか。腹も減ってきたし・・・。お前、ある材料でなんか作れるか?」
9月のカナダは東京の11月位の陽気らしい。日中は20℃前後で過ごしやすいけど、朝晩は冷え込んでくる。
「うん。あれだけ揃ってれば大抵のものは作れるよ。なんかリクエストある?やっぱり和食が恋しい?」
「いや、シェフが日本にいる時と変わらない食事を用意してくれてたから。・・・お前に任せるよ。」
あたしはポトフを作ることにした。
後は煮込むだけと言うところまで準備が出来きて一休み。
あれ?あたし、もしかして汗臭い?
そう言えば・・・
急いで地下まで走った。
ヤッホー!いつでも入れる状態になっているじゃない。温泉だったよね〜、ここ。
すぐにでもザブンと湯船に浸かりたかったけど、まさかあいつより先に入る訳にはいかないよね?やっぱり・・・
しょうがない。ここは道明寺に先に入ってもらうか。
あいつは暖炉の前に屈み火の調整をしていた。
「ポトフにしたんだけど、よく煮込んだ方が美味しいから先にお風呂に入っちゃって。」
「わかった。」
ちょ、ちょっと待って。今なんか夫婦の会話みたいじゃなかった?
顔が赤くなっていくのをあいつに悟られないように逃げるようにUターン。
シーフードサラダも出来て後はガーリックトーストを焼くだけと言う時に、あいつがバスローブ姿で現れた。
「お前も入っちゃえよ。着替えなら東の角部屋のクローゼットにあるから適当に選べ。別にめかし込まなくても、楽で暖かいカッコでいいぞ。」
久し振りに見るあいつの濡れ髪やはだけた胸にドギマギして、
「わ、わかった。あんたもちゃんとなんか着といてよっ!」って言うのが精一杯だった。
「何飲んでるの?」
「キール・ロワイヤル。お前も飲めよ。さっぱりするぞ。」
あいつは暖炉の前のソファに腰掛け、湯上りのあたしにシャンパンを勧めてくれた。
よく冷えた液体が、スーッと滑るように一気に喉を通っていく。
「美味しい!お代わりちょうだい。」
「お、おい、もっとゆっくり飲めよ。食事もここでしようぜ。」
立て続けに2杯飲んだらふわふわといい気持ちになったきた。
よく考えたら、この広い別荘に今夜はあいつと二人だけなのよね・・・・
こ、こら!何想像してんの、あたし!
静まれ!心臓!!
も〜!!こうなりゃ飲んじゃえ!
したたか飲んで食事を済ませると、あたしたちは暖炉の前の絨毯に座った。
パチパチと薪の燃える音だけが辺りを包んでいる。
「俺、NYに行ってすぐホームショックに罹ったんだ。」
「それを言うならホームシック!」と言いたかったけど、話の腰を折るようで「うん。」と相槌を打った。
「でもかっこつけて渡米したのにノコノコ帰れねえだろ?
とにかく1年間は頑張ろうと思ったんだ。・・・・・お前に電話したら泣き言ばっかり聞かせそうで・・・・・・受験の大事な時期に心配かけらんねえし我慢した。・・・・・・・・無我夢中で毎日をやり過ごして・・・・・どうにかNYの生活にも慣れてきて・・・・少し気持ちに余裕が出てきたら今度は急に不安が襲ってきやがった。・・・・・・お前が国立大に合格したって聞いて新しい環境で俺の事なんか忘れちまうんじゃないかって。・・・・・お前を疑った訳じゃないけど、時間が経つにつれてそのことが頭から離れなくなった。・・・・・・・それで居ても立ってもいられなくなって・・・・・この天下の道明寺司さまが・・・・笑わせるよな・・・」
あいつは暖炉の炎に視線を落としたまま、ぽつりぽつりと打ち明けてくれた。
それは自信に満ち溢れてるいつもの道明寺じゃなくて・・・
あたしの胸がざわざわし始めて・・・・
愛しさとか・・・切なさとか・・・もどかしさとかが堰を切ったように一気に込み上げてきた。
「このタコッ!あたしだって・・・・あたしだってそうだよっ!」
自分でもビックリするほど大きな声を出してしまった。
「あんたに会いたくて。声が聞きたくて。でも1人で頑張ってる道明寺に里心つけちゃいけないと思ったし、少しでもいい大学に入ってみんなに認めてもらうために受験勉強に集中しなきゃって自分に言い聞かせたよ。だけど向こうにはナイスバディで積極的な金髪美人も大勢いるんだろうなって考えたらどんどん心細くなって・・・・・」
「アホかぁ!?お前は!俺がそんな毛唐相手にすっかよぉ!」
今度はあいつが大声を出す番だった。
「アホとは何よ!アホとは・・・・・」
ポロポロ涙がこぼれてきて後は声にならなかった。
「ごめんな。ごめんな。」
道明寺は何度も何度も謝って、大きな手であたしの頭を撫でてくれて・・・
あいつの胸で涙を拭きながら、今まで精一杯張っていた虚勢が抜けて楽になっていくのがわかった。
懐かしい道明寺の匂いを嗅いだせい?
キール・ロワイヤルを飲みすぎたから?
いやきっと時差ぼけのせいに違いない。
普段では考えられないことを口走っていたあたし。
「・・・・・・今夜は抱いてくれる?」
一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で固まったあいつ。
そりゃそうよね。だけど言った本人が一番驚いてるんですけど。
「いいのか?今夜は途中で止めねーぞ。」
恥ずかしくて道明寺の顔がまともに見られない。
え〜い、女は度胸!
道明寺の首に腕を絡めて顔が見られないようにすると、
「水上コテージの夜からずっとそう思ってたよ。」って耳元で囁いた。
うわ!マジ?やっぱりおかしいよ、あたし!
あたしの言葉が終わるか終わらないうちに、あいつの唇があたしのうなじをはった。
耳に、頬に、瞼に、そして唇に降り注がれるキスの雨。
ベッドへ移動する僅かな時間さえもどかしくて、
暖炉の前で重なり合う二つの身体。
胸に、背中に、わき腹に電撃が走るたびに、ぴくんとあたしの身体が震え声にならない声が洩れる。
止むことのない鼓動の高まりが未知の世界へと誘う。
身体の芯が熱くなるのを感じて硬直したけど、怖れはなかった。
やっとひとつになれる喜びの方が勝っていたから。
あいつの愛撫は優しくて・・・
大切にされているのが嬉しくて・・・
1年半の空白を埋めるように、あたしはあいつにしがみつく。
知らぬ間に零れ落ちる一筋の涙で気付いた。
ああ、こんなにも道明寺を求めていたんだ・・・
溢れ出す激情をあいつの唇が優しく受け止めてくれる。
「つかさ・・・」
与えてあげられることの幸せを噛みしめながら、あたしはゆっくりと道明寺の全てを受け入れる。
言葉に出来ないほどの満ち足りた気持ちがあたしの細胞を埋めていく。
宇宙の万物に感謝したくて・・・
あたしはもうあいつのいない世界では息も出来ないかもしれない。
あいつも同じ気持ち・・・・・?
まだ荒い息の中、あたしたちはシンクロするように同時に魔法の言葉を呟いた。
「ありがとう・・・」
あたしは魂までもが一つになれたような気がした。
ガタンッと言う音で目が覚めた。
暖炉の薪が焼け落ちた音だった。
いつの間にかソファの上に横たわっていたあたし。ちゃんと毛布までかけられて。
視線に気がつき顔をあげると、正面のソファから道明寺がこっちを見ている。
「あ、ありがとう・・・ソファまで運んでくれたんだね。あ、あんたは寝なかったの?」
「お前を見てた。」
も〜!こっちは動揺してるんだからそんな直球投げてこないでよ〜。
「身体大丈夫か?」
「う、うん。」
何?こいつ、何でこんなに余裕なの?
「お前が遭難した時のことを思い出してた。あれからまだ2年も経ってねーんだよな。」
そうだった。いろんな事がありすぎて遠い昔の出来事のように感じるけど、2年経ってないんだ・・・
「俺、今すげー幸せだ。あの頃はこんな穏やかな気持ちになる日が来るなんて想像もできなかった。」
あいつの素直な言葉にあたしの心も満たされていく。
あたしはあいつをもっともっと幸せにしてあげたくなった。
「あのね、道明寺・・・・・あたしはもう大丈夫だよ。これからは離れてても揺れない。何が起きても信じられるってさっき確信したよ。」
「俺なんか2年前からずーっと変わってねえぞ。それに、グダグダ悩むのは性に合わねーし懲り懲りだ。もう迷わないって誓えるぜ。」
「あたし、まだだったよね・・・」
「え?」
「あんたがNYに行く前にしてくれたプロポーズの返事・・・・・」
「プロムの時、俺を幸せにしてやってもいいって・・・・・あれが返事じゃなかったのか?」
「ま、まあ、そうなんだけど・・・・」
「俺はずーっとそう思ってたぞ。違うのか?」
「あんたの相手が務まるのは、世界中どこ探したってあたしくらいなもんでしょ?」
「てことは・・・・・?はっきり言えよ。」
「だから結婚してあげるって言ってるのよっ!」
「ほ、ほんとかっ?!」
あいつの顔がぱあっと明るくなった。
「もちろん、あんたのお母さんの許しもまだ出てないし、すぐにって言うわけじゃないけど・・・・・」
「やっりー!!あー待ちきれねー!このまま今すぐにでもNYにさらっていきてーよ。」
駆け寄ってきて、息も止まるほど強くあたしを抱きしめるあいつ。
でもすぐに力は緩められ、真剣な顔で真直ぐにあたしを見る。
「だけど、本当にお前はそれでいいのか? とてつもなくでっかくて重い荷物を俺と一緒に一生背負っていくことになるんだぞ。」
「誰に聞いてるの? 赤札にも屈しなかったこの牧野つくしさんの雑草パワーを甘く見てもらっちゃ困るわね。あんたと二人なら楽勝でしょ?」
あたしは自分の中で飛びっきりの笑顔を作る。
「牧野・・・・・やっぱお前最高っ!! まあ、この俺様が選んだ女だからな。」
そう言ってヒョイとあたしを抱き上げた。
「うわっ!驚かせないでよ。・・・・・あれ?あんたもしかして泣いてるの?」
間近で見るあいつの目に光るものが・・・・・
「ば、ばか言え。ちょっと目にゴミが・・・・・」
本当はあたしもさっきから鼻の奥がツーンとして困ってるんだけど、
「あはは。それって古典的ないいわけだよ〜」
なんて笑い飛ばしてやった。
「うるせー!ちくしょ〜、今ここにあいつらがいればな〜。早く自慢してやりてぇよ。」
「あっ!いいこと思いついた。 明日一緒に写真を撮らない?それでカードを作って今まで心配や応援してくれた人たちに出したいな。感謝の気持ちを込めて。幸せなあたし達を見てもらいた・・・・・きゃあ!」
言い終わらないうちに、あたしを抱き上げたままくるくると回り出すあいつ。
「ちょ、ちょっと危ないってば。」
「いいな、それ。タマなんてきっと腰ぬかすぜ。」
体中で喜びを表してくれる子供みたいなあいつが愛しくて、勇気を出して踏み出してよかったと心から思えた。
「じゃあ、明日に備えてもう寝るか。もちろん東の角部屋で一緒にな。」
そう言うと、おでこにキスをしてあたしを抱いたまま歩き出した。
「あの部屋から見る日の出は最高だぞ。」
「牧野、起きろよ。もうすぐ夜が明けるぞ。」
え?寝ぼけ眼をこする。
「あんたいつ寝たの?」
「なんか寝るのが怖くてよ。目が覚めたらお前がいなくなってるような気がして。・・・全て夢だったなんてたまんねぇからな。」
「そんなわけないじゃない。」
窓の外ではもうすぐ日が昇ろうといていた。
「明けない夜はないんだね。」
あたしは今日の朝陽をきっと一生忘れないだろう。
あいつと二人で見た新たな旅立ちの光を・・・・・
「これ付けて写真撮ろうぜ。」
「え?これ、あたしのネックレス?いつの間に?」
「お前がパスポート取るとき隣に見えたから持ってきた。もう一度ここで付けてやりたくて。」
うなじに触れられて昨日の感覚がよみがえる。
「お前、何赤くなってんだ?すけべ。」
「赤くなんてなってないわよ!」
「わかった!よせっ、ぶつな。」
なんかおちょくられてる?
「そう言えば、昨夜初めて名前を呼んでくれたよな。もう1回呼んでくれよ。」
「あ、あんたこそ、呼んでみなさいよっ!つくしって!呼べるのっ?」
「つ・・・つく・・つく・・・・・・だから、蹴るなって!!ちょっと待ってろ。」
急にシリアスな顔になるあいつ。
「これ・・・・俺にもかけてくれないか?」
「え?・・・・・うわぁ、綺麗!」
見るとペンダントがひとつ。環の付いた丸いプレートがユラユラ揺れている。
「土星だよね?これも。」
環に刻まれた文字に心が震えた。
「Eternal・・・・・素敵な言葉だね。」
「おう。俺達にぴったりだろ?」
照れくさそうにあいつが笑う。
「ほんと言うと、姉ちゃんがこれ作ってくれて・・・」
「お姉さんが?」
「俺の様子見かねて、これ持って決めて来いっ!ってケツ蹴り上げられたよ。」
「お姉さんにも心配かけちゃったんだね。」
「姉ちゃんはあのネックレスのこと知らないし、多分お前にって作ってくれたんだろうけど、俺は次に贈るのはエンガチョリングって決めてたから・・・・・」
「それを言うならエンゲージリングでしょ!エンガチョって・・・縁切ってどーすのっ!」
「と、とにかくそのリングだ!だからチェーンを長いのに変えたんだ。ビシッと自分の気持ちを伝えて、その証しにお前からこれをかけてもらおうと色々考えてきたのに・・・・・今回は言いたいこと全部お前に先に言われちまって・・・・・」
「そうだったんだ・・・・・貸して。かけてあげる。」
黙って頷くあいつ。
「大事にしないと罰が当たるね。お姉さんもペンダントも。・・・・・それからあたしも・・・ね。」
最後の言葉は冗談のつもりだったのに、あいつは真顔で答えてくれた。
「約束するよ。おまえを・・・・・つくしをずーっと、ずーっと大事にする。永遠に・・・」