スキ
カツン・・・カツン・・・
時折聞こえるかすかな音。
── なん・・・の、音・・・だろう?
飛びそうになる意識をなんとか引き戻して、朦朧とした意識の中でその音源を探る。
あたしの体を這う司の指が細くて長くてきれいだなぁ、なんて思ったり、こんなときの司のちょっと苦しげな表情も好きだなぁ、なんて思ったり。
上の空なわけじゃないけど、あえてほかの事に意識を持っていかなければこの快楽に飲み込まれてしまう。
・・・カツン・・・
また聞こえた。あたしの胸元のあたり。
── え、胸元!?
「ち、ちょっとまって司!」
慌てて身体を起こすと、司は明らかに不満顔。
そりゃそうよね。これからってときに突然止められたんだもの。
「・・・んだよ。途中で止めんなよ」
不満顔そのままの声で司が抗議する。
そりゃ気持ちはわかるけど・・・
「だってネックレスが当たってるよ。傷になっちゃう」
「ネックレス?」
司は今気づいたというように、ああこれか、と指先で摘む。
司とあたしの胸元に光る、ダイヤとルビーの入ったお揃いのようでいてお揃いじゃないネックレス。
「大丈夫だって。ダイヤはダイヤでしか磨けないんだぜ。ちょっとやそっとのことじゃ傷なんかなんねぇよ」
なにをそんなこと、という調子で言うと、あたしの肩を押さえつけて押し倒しまた深く腰を沈める。
「ちょっ・・・つかさっ。待ってよ、ねぇ!」
「やだ」
あたしの訴えも一蹴されてしまった。
「やだ・・・って・・・んっ」
反論しようともがいてみたけれど、それは全く無駄な抵抗で。
どんどん激しくなる動きにまたあたしの意識が怪しくなってくる。
もういいや、されるがままに身を任せてしまおう。そう思った時、苦しげな息遣いの合間に聞こえてきた司の・・・声?
「だからおまえは、俺・・・にしか磨けねーし、俺は・・・おまえにしか、磨けねー・・・んだよ」
何のこと?と考える間もなく快楽の波が襲ってきて
「ああっ、もう・・・だめ・・・・・・っっ」
絶叫のような声を上げて、とうとうあたしは意識を手放した。
ゆっくりと目を開けると、目の前には司の大きな背中。
「つかさ・・・?」
「お、起きたか?」
「ん。えーと、あたしもしかして・・・」
「そーだな。気絶したのは、何度目だ?」
「ば、ばかっ。そんな大きな声でなんてこと言うのよっ」
ニヤニヤと、からかうように言う司に枕を投げつけたけれど。
「そういえばさっき・・・おまえは俺にしか磨けねーとかなんとか・・・言った?」
ふと思い出して聞いてみる。
「あ?そんなこと言ったか?」
すっとぼけているけれど、あたしから外した視線が宙を泳いでるよ、司くん?
司でも、雰囲気に乗らないと言えないことってあるのかな。
「だってあたしはダイヤモンドじゃないよ。雑草だよ」
そう言うと、ぴくりと彼の眉が上がる。
「俺にとってはダイヤモンドなんだよ。俺がそう言ったらそうなんだよっ」
投げつけるようにそう言って完全に向こうを向いてしまった。
あまりに突飛なことを言われて顔に血が上るのがわかる。
「なに・・・」
バカなこと言ってんのよ!と背中を引っ叩こうとした時に気づいてしまった。
真っ赤になっている司の耳。
・・・自分で言っておいて、何照れてんの?
からかおうとしたけど、やめておいた。
なんだか、照れている司が妙に愛しくて素直に嬉しかったから。
くさいことを言う司も、言った後で自分で照れちゃう司も、どんな司でもたまらなくスキだよ──
── そんな気持ちを込めて、珍しくキスをせがんでみたりした。
Fin