ずっとそばに



―――使用人

 困ります・・・なにも言わないように言われているので・・・。
若奥様のことですか?
気が狂っている?
いえ・・・そ、そんなことはありません!
わ、わたし・・・若奥様付きのメイドではありませんので、なにも・・・。
本当に勘弁してください。


―――ご学友A

 俺達だって会わせてもらえないんだってば。
はぁ?
呪われた花嫁ぇ?
あっはは!
ねえ、そっちの方がイロイロ知ってるんだろ?
お兄さんに教えてくれないかな?ニッコリ


―――近所の人

ええ、同時に何枚もガラスが割れる音がしたり、
真夜中に屋敷中の明かりが一斉に点滅したり・・・
あたしも聞きましたよ、屋敷から人のうめき声が聞こえてきたんです。
恨めしそうな声で・・・もう、怖くて怖くて。
近所じゃ道明寺様のお屋敷を「お化け屋敷」なんて・・・
あらやだ、内緒ですよ?


―――つくし





・・・・・・誰?・・・・






―――M社新聞記事

 新婚旅行の最中であった豪華客船が炎上するという痛ましい事故から一週間たったが、客船が沈んだ場所が難所であるため引き上げ作業は進んでおらず、未だに乗客乗組員の安否は不明のままである。
 唯一の生存者、道明寺つくしさん(21歳)は自宅で意識を取り戻した模様―――


―――道明寺家正門前にて

 ちょっと、開けなさいよ!先輩が帰ってきてるんでしょ?
どうして私たちに会わせてくれないのっ!
なによ、アンタたち?
新聞記者?
え?
先輩が亡霊に取り付かれてるですって?
……SPに腕の1本か2本折らせるわよっ!
おととい来やがれっ!バキッ
あ、やっちゃった・・・


―――椿

つくしちゃん、よっぽどショックだったのね・・・。
あんなにまで自分を責めて・・・
痛々しくて見て・・・いられない・・・


―――使用人

きゃあ!
どうしてこのお部屋、毎日毎日変なことが起こるんですか?
もう・・・あたし怖いです。もう辞めたい!


―――楓

おまえたち、無駄口たたいてる暇があったら、さっさと掃除をなさい。
家のものをじろじろ見るんじゃありません!


―――つくし

・・・あんたが・・・居なくなるわけないって・・・思ってたよ・・・


―――たま

コラ、しゃんとしな!
つくしらしくない・・・
って言ったって、耳に入ってないさね。
よいしょっと。
でも、ちょっとぐらい食べさせなきゃ・・・
さぁこのタマのために食べてくれんかね?


―――道明寺家公式HPより

・ ・・・・・道明寺司告別式は社葬となります。お問い合わせは・・・

―――つくし




・ ・・はは・・・あはは・・・・・・




―――使用人

わ、わ、若奥様が・・・若奥様が窓の外みて笑ってらっしゃいます!!


―――自称ご学友K

つくしちゃ〜〜〜ん!!(カヤの外)





 俺は目が覚めた。
 いや、覚めたというか、ずっと覚めていたというか。
ここはどこだ?
冷たくて、暗くて、やけにしんとして・・・
耳の奥でザーという音がずっと聞こえているような気がする。
俺は手探りで探している。
―――何を?
暖かくて柔らかくて・・・大切なもの。
そうだ、俺は大切なものを探している。
ちゃんとこの手で確認しなくては、安心して行く事が出来ない。
―――行く? どこへ?
あぁ息苦しい。空気が重てぇ。
俺は考えるのを辞めた。
適当に歩き始めた。
でも、確信はあった。

見慣れたドアがあった。
よく磨きこまれた真鍮のノブは手にすっぽりと納まる。
開いた扉の向こうに、俺は見つけた。
俺の大事なもの。
腕の中に抱きしめた明るい花。
心から愛した女。
お前がいなけりゃ、俺は何のために生きているのかわからない。
お前のためなら、なんだってできる。
だから・・・
笑ってくれないか?
お前の笑顔が見たいんだ。
いつもみたいに、ぱっと輝くみたいに。
人形のように白い顔で、あいつはひとり、鏡をみていた。
俺はその隣に立つ。




そう、
俺はお前のためになら、なんだって出来る。
なのにお前はいつもケンキョで漢字は・・・えーっと、まあいい。
怒るなよ。
安心しろ。
俺はお前が笑ってくれたらそれでシアワセなんだ。
俺はいつでも、お前のそばにいるから・・・・・・




                              おわり