「・・・・・」

 つくしは携帯電話を睨みつける。

 かれこれもう何分ほどこうしているのだろう。
 音も鳴らず、震えもしない携帯電話は、『鳴らなくてごめんなさい・・・』とでも
 言いたそうに、小さくなっている・・・ような気がした。

 「・・・・・なんでかかってこないのよ・・・・」

 見つめても睨みつけても、電話はうんともすんとも言わない。

 「あーっ!道明寺のばかっ!」

 イライラが極限に達したつくしは、電話を壁に投げつけた。







 話は昼間にさかのぼる。
 団子屋のバイトが終わり、更衣室へ戻ると、携帯電話に1件のメールが届いていた。

 「・・・誰だろ?」

 司からである。
 着信履歴もいくつかあった。

 《電話してもでねーから、夜かけなおすわ。寝てんじゃねーぞ     TSUKASA 》

 「・・・今日バイトって言ってんのに・・・あいつ・・・」

 口ではそう言いながらも、嬉しさは隠せない。
 
 「ま、かけてくるんだったら待っててあげようかな・・・?」







 ・・・・・が。
 もうそろそろ12時を廻るというのに、司からの電話は一向にかかってこない。
 いつ電話があってもいいようにと、着信音量は最大にしてある。
 銭湯へ行っても、カラスの行水よろしくさっさとあがった。

 「ちょっと・・・あんたのご主人は何やってんの?」
 
 つくしは枕もとのテディベアに手を伸ばす。
 以前司とデートしたときに、何となく気に入り、買ってもらったものだ。
 いいよ・・・と、つくしは断ったのだが、それを受け入れる司ではない。 
 結局、つくしが折れたのだが、好きな人に何か買ってもらうということは、特別嬉しかった。
 
 「電話するとか言いながらさ・・・かかってこないじゃない」

 腕を引っ張る。

 「あたし、眠いのに待ってるんだよ」

 今度は足を引っ張る。
 テディベアは逆さ釣りだ。
 
 「道明寺のバカバカバカ・・・・」

 鼻をうにうにと押す。
 実際、テディベアには何の罪もないのだが、何となく、つくしは当たってしまう。

 「・・・もういいっ!寝るっ!」

 テディベアをポイっと投げ、つくしは布団へもぐった。




    電話がかかってこないだけじゃない
    もしかしたら忙しいのかもしれないしさ
    
    あたし、わがままだ・・・・

    

 
 むくりと起き上がり、投げたテディベアを拾う。
 ぎゅっと抱きしめた。

    ・・・これが道明寺だったらなぁ・・・・










 「♪.・*♪.・.:.:*・」

 突然、電話が鳴り出した。
 
 「はいっ」

 『・・・はえーな、出るの・・・・』

 司からだった。
 つくしが待ち望んだ、司からの電話だった。

 『遅くなって悪かったな・・・総二郎たちに足止めくらって・・・っておいっ!』

 電話の向こうから、つくしの嗚咽が聞こえる。

 『お前、何泣いてんだよ、なんかあったのか?』

 「だっ・・・・ど・・・・」

 つくしも、何故自分が泣いているのかわからなかった。
 ただ、司の声を聞いただけで、胸が熱くなったのを感じた。

 『今家にいるんだろ?いくからな、今から行くからな、おとなしく待ってろよっ』

 プッと切られたライン。

 「・・・なに切ってんのよ・・・あたし何も言ってないのに・・・」

 今度は胸が温かくなるのを感じる。
 
 道明寺が来る。
 電話を待ってたあたしが、今道明寺本人を待ってる・・・
 
 つくしは電話の「切」ボタンを押す。
 
 きっと息を切らせて来るんだろうな・・・
 そしたら、あたしはなんて言おう。

 『どうして電話くれなかったの?』
 『ずっと待ってたのに・・・』

 言いたいことが多すぎてまとまらないや。
 何も言わずに、ドアが開いた瞬間に道明寺の胸に飛び込んでみようか・・・

 
 ドアをノックする音が聞こえた。


             ************fin************
 

作: ポンさま

TEDDY BEAR